AIコーディングで要求管理ツールを作った実験記録
はじめに:なぜこの実験を行ったのか
「AIコーディングは本当に実用的なのか?」「AIエージェントによる自動開発はどこまで可能なのか?」
これらの問いに答えるため、実際にAIコーディングツールを使って要求管理MCPサーバーのモックアップを構築する実験を行いました。本記事では、その過程で得られた知見を簡単に紹介します。
🧭 実験の目的
主目的
AIによるソフトウェアの自動開発の実力と限界を把握する。
副目的
- Miyabi(Claudeコード拡張ツール)の構造・思想を理解する
- AI開発によってモックアップレベルのツールをどこまで迅速に構築できるか検証する
- VS Code上でAIとツールが連携する開発体験を確認する
⚙️ 実験環境と実施内容
使用ツール
| ツール | 役割 |
|---|---|
| Claudeコード | API駆動のコード自動生成ツール |
| Miyabi | npx miyabiで起動、Claudeコードの上に動作するフレームワーク |
| VS Code | 実行・開発環境 |
作成した成果物
要求管理MCPサーバー(モックアップ)
AIとの対話により、要求をツリー構造で自動生成・管理する仕組み。
動作概要
- 人間がチャットで要求を説明
- AIが解析して要求構造(ツリー)を生成
- MCPサーバーがデータを保持し、AIがそれを読み書き・分析可能にする
利用構成
ローカル上のVS CodeでClaudeコードをベースにMiyabiを追加実行。サーバー・クライアント構成を模擬。
💡 得られた知見
1. AIコーディングの有用性
モックアップ構築においては非常に高効率。
- ✅ 機能拡張のスピードが圧倒的に速い(多く見ても30分以内に1機能、githubへのコミット・プッシュもすべて実施)
- ✅ 開発者1人でも実用レベルの原型が短期間で作れる(モックアップレベルだが10数時間程度)
例えば、「A製品の要求を作成してください。ステークホルダは製品利用者です」と伝えると、MCPサーバにその機能がなかったら、ツールの機能拡張を提案し作成。ざっくりした説明からステークホルダ要求、システム要求の分解、上位と下位要求の整合性、粒度の調節などを自動的に実施でき、その依存関係を正確に表現している。
2. 費用対効果
API利用料は高く感じたが、開発工数を考えれば十分安価。
- ⚠️ Claude APIの利用料金は想定より高い(数十ドルがすぐ溶ける)
- ✅ ただしプロトタイピングや実験段階では優位性が高い
- ✅ 人件費と比較すれば依然としてコスト効率が良い
- ✅ 逆に運用段階ではコストを抑える方策が必要なのが課題
3. 開発体験の変化
「ツールを使う」から「ツールを育てる」へ。
従来の開発:
要件定義 → 設計 → 実装 → テスト → デプロイ
AI開発:
対話 → 生成 → 確認 → 修正 → 対話 → ...(継続的な進化)
この自動化環境はMiyabiによる成果が大きい
結論:ユーザーがAIエージェントを通してツールを進化させていく構造が明確に見えた。
4. 技術的示唆
トレーサビリティ(要求間関係)の自動化がAIで十分に実現可能。
- ✅ 一定のルール化を行えばAIによる構造生成・分析ができ、MCPサーバー側でデータのインフラ化できそう
- ✅ (もしかすると)既存ツールよりも操作効率・柔軟性が高い
- ✅ JSON形式での要求管理はAIとの親和性が極めて高い
⚠️ 課題と限界
1. コスト面
Claude APIの運用コストがばかにならない(開発コストは安く思える)
継続的な利用にはコスト最適化が必要。特に大規模プロジェクトでの運用には要検討。
2. データ永続化
現時点ではVS Codeローカル保存に留まる。
DB統合までは未実施。実運用には以下が必要:
- データベース統合
- バックアップ機構
- 複数ユーザーでの共有機能
3. 成熟度
まだモックアップレベル。
実運用に耐えるには以下の設計が必要:
- 構成管理
- 認証・認可
- データ保全
- エラーハンドリング
4. AIとの責任分担
「どの程度頼ってよいか?」「人間は怠惰である」AI活用の運用設計は課題
- きっと人間は判断しなくなり、Enter Keyを押すだけになる
- 修正履歴と判断根拠、判断結果の記録は残せるが、問題があったときに見るだけになる
- 最終的に「使う人が困らない」ための責任分担、例えば出荷判断の検査は「見落としゼロ」の責任を担う
- 責任をどう担い、また評価し、成果報酬につなげるのか運用設計が必要
🚀 今後の展望
1. 開発スタイルの変化
「AI-assisted agile development」の実例として有望。
- モックアップ構築をAIが担う
- 人間は設計意図や品質判断に集中
- スプリントの速度が劇的に向上
2. ツールの方向性
「自己拡張型ツール」が主流化する可能性。
- 各ユーザーが自分専用のAIコーディング環境を持つ
- ツールが使用者の文脈に合わせて自律進化する
- Miyabiのようなフレームワークが標準化される
3. 要求管理MCPサーバーの進化
要求データをAIが継続的に解析・更新。
- トレーサビリティと分析を自動化
- PLM的な枠を超えた「知識的インフラ」として発展しうる
- 要求→設計→実装→テストの全工程を自動連携
総括
AIコーディングは、開発の自動化というよりも「開発者とAIが共同で成長するプロセス」を担っている。
今回、要求管理という高難度領域でも、AIがツール生成と構造設計を人間のニーズをもとに開発し、人間が評価して、機能追加を行うことが可能になった
次のステップ
今後はモックアップレベルは変えずに機能をどんどん追加して、どこまで理想像を描けるか実験していく。
この実験は以下のGitHubリポジトリで継続中:
- requirements-mcp-server
- 技術ブログで進捗を随時公開
あなたも試してみませんか?
この実験は誰でも再現可能です。
必要なもの:
- VS Code
- Claude API キー
- Miyabi(
npx miyabiでインストール)
始め方:
- リポジトリをクローン
npm install && npm run buildnpx miyabiで起動- チャットで要求を入力
詳細はクイックスタートをご覧ください。
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